御曹院ハザマ日記 3:00~4:00
- ひげまみれのらじ
- 2022年1月19日
- 読了時間: 3分
更新日:2022年1月20日
俺がまだ生まれる前の話だから、シオンが9歳くらいの頃か。
隼田院フリージアが初めて入院して、退院した頃だから…
わかんねえな。大体そのくらい。
俺を知ってる人間であいつを知らん奴はいないだろうが、
一応説明しておくと、隼田院フリージアっていうのはシオンの1つ下の幼なじみだ。
馴れ初めを今から話すが、別にあいつとの思い出を語りたいわけじゃない。
言っておくがこれはただの、俺の自己紹介だ。
ありきたりな話だ。
あの頃のシオンには友達がいなかった。
いるとすれば犬のガブリエルくらいか。
その頃からあいつは品行方正なおぼっちゃまで、
周囲の大人からの評判もすこぶる良かったさ。
裕福な家庭で利発そうに笑っていて、
もちろん飢えたこともなければ好きなものを食べられるし、
清潔で安全であたたかな居心地の良い部屋が用意されている。
学校では人気者で、教師からも信頼されていて、家には遊び場も遊び相手もいて、
お手伝いにも優しく接してもらっていて、子供思いの両親がいる。
やりたいことだって何でも挑戦できる。
友達がいなくて何の不自由がある?
誰もが一度は夢描くような生活を送るとても恵まれた子供だ。
恵まれた子供だから文句なんて何もあるはずがないのだから口にしてはいけない。
恵まれた子供だから誰にでも優しくできないなんておかしい。
恵まれた子供だから譲ってあげなくてはならない。
お利口でなくちゃいけない。運動ができなきゃ恥ずかしい。姿勢は常に正しく、背筋は曲げて歩かない。テレビゲームはしない。口ごたえしない。常に身だしなみを整える。わがままを言わない。上品でなくてはならない。落ち込まない、羨まない、心に余裕を持つ。人のことを悪く言わない。家族を大事にする。付き合う人間を選び、接する人を選ばない。気取らない。驕らない。他人の気分を害さない努力をする。努力は悟らせない。空気を読む。他人に迷惑をかけない、傷つけない。期待を裏切らない。
──強制されたことはない。
ただ、笑うのだ。1つでも間違えれば、人は笑うのだ。
困ったように。侮るように。嘲るように。
シオンは恵まれているから、侮られていた。
求められるから応え続けた。
それらを求めるだけの人間とは友達になれなかった。
友達なんて欲しくなかった。
なのに誰も知らないところでただ、渇望していた。
それが子供の頃から変わらない、御曹院シオンだ。
──さて、話を戻そうか。
突如として現れた隼田院フリージアは、シオンにとってめちゃくちゃなやつだった。
病人のくせに大人しくしていないし、何度断ったって遊びに誘ってくる。
そのうえ、自分はベッドから動けないからそっちが遊びに来いという始末だ。
散々振り回されたし、鬱陶しかった。
鬱陶しかったけれど、鬱陶しいほど声を掛けてもらえたのだって、初めてだった。
フリージアが退院した後、彼女が病院に顔を見せることはもちろんなかった。
ここは病院だ。
用がなければ来ないのだ。
だったら、用を作れば良い。
きっと彼女こそが俺にとって、初めての友人だった。
だから、もう少し遊びたかったんだ。



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