御曹院ハザマ日記 2:00~3:00
- ひげまみれのらじ
- 2022年1月19日
- 読了時間: 3分
改めて自己紹介をしよう。
僕は御曹院シオン。
タピオカ…──今は隼田院フリージアと呼んだ方がいいだろうか
その友人から貰った「イカボッド」という名に愛着がないわけではないので
それはニックネームとしておくことにしよう。
つまり「僕は御曹院シオン。僕のことをイカボッドと呼ぶ友人もいる。」
こんなところかな?
果たしてその友人がまだイカボッドと呼び続けるかは別の話として。

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生命そのものすらを得るはずのなかったこの僕が『人生を得る』という
僕にとってはこれ以上ない奇跡が起きた。
ワールドスワップシステムというもののことについて
特になんの感慨も抱いていなかったけれどまさかこんなことが起きるなんて!
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一口に「僕」などと言ってみてはいるが、「僕」という存在はひどくあやふやだ。
アンジニティに来る以前の記憶は「僕」にはないが、僕の魂はそれを覚えている。
そして「僕の魂」というものがそもそも何なのかという話だ。
例えばイバラシティに居る僕を含めた僕の友人たちは「人間」だ。
そういう正式な呼び名が僕にはない。
覚えたての言葉で、敢えて近い概念を選ぶとすれば「水子」だろうか。
生まれる前の魂、生まれることを拒まれた魂
製造主、或いは「世界に否定された魂」だ。
もちろんそんなこの世に存在すらしていない魂は、本来魂にも満たない。
ただ「僕たち」はひどく寂しがりやなのだ。
誰かに寄り添いたいし、寄り添われたい。
手の届かなかった、手を伸ばしてくれなかった誰かに。
だから「僕たち」は自然と引き寄せ合う。
自我も欲も持たない僕らはまるで磁石みたいに。
そうやって寂しいものだけが、自分なのか別の誰かなのか
そんなことすらわからないまま無数の僕らはくっついて、一つになっていく。
一つずつくっつけて、少しずつ確かになっていくのは僕らの存在ではなく「寂しさ」だ。

「僕たち」は一生、生まれることのできないまま
埋められない寂しさだけを確かにしていく。
そしてただ、それに耐えられず消えていくのだ。
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それが「僕」であり、「僕たち」だ。
なら、どうして僕がここに居るのかって?
それは以前にお話した通り。
今は友人となったあの、元タピオカ現フリちゃんが僕を求めてくれてから
……なんじゃないかと僕は思っている。
なにせあれが無様に死にかけているところを消えかけながら哀れんでいたら
乞われるままに医者だってことになっていたんだ。
これって奇跡みたいだと思わないかい?
本当は消えるはずだった「僕たち」が今ここに居る。
あのとき見放されて野垂れ死にかけていたタピオカのおかげだ。
だから僕はタピオカについていくことに決めたんだ。
あれが求めてくれる限りは、そばに居させてくれる限りは寂しさも少しは和らぐし。
そして、生まれるはずのなかった「僕たち」
「僕たち」はやがて「僕」になる。
ワールドスワップというのはもしかして
僕の為にこそ行われているんじゃないかとすら錯覚するよ。
「僕たち」は生まれ直すことができる。
──「僕たちが否定されなかった世界」へ



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